
PPRとは、「Personal Process Re-engineering」の略で、個人自らが自身の行動を分析し、個人における様々なプロセスを最適化すること。または、それを達成するためのアプローチのことを指します。
業務の流れや組織構造を最適化する「BPR(Business Process Re-engineering)」がトップダウンによる改善アプローチであるのに対し、PPRはパーソナルという言葉に象徴されるように、ボトムアップによるアプローチであることが最大の特徴です。
BPRの実践に取り組む多くの企業では、低い導入効果に悩みを抱え、ミドル層活用などの解決方法を模索する状況が続きますが、トップ、ミドル、ボトムといった層を意識しないPPRは、最適化された個人のネットワーク化によって、全体の「可視性向上」「生産性向上」「経費削減」を実現します。
高度情報化によってピラミッド型組織が終焉を向かえ、企業におけるESの重要性は増すばかりですが、逆に従業員は、景気悪化による雇用不安で会社への依存意識を低下させ、従業員個人の市場価値向上に興味を移しています。
そんな時代背景からも、まさに今日BPRからPPRへとアプローチを転換する時期を迎えています。


全体最適化を実現するために、個人のプロセス改善から取り組むことで得られるメリットは、大きく二つありますが、一つ目は個人の改善意識を利用するため、『能動的に業務改善が進行』する点です。
企業経営者が業務改善によりROIを最大化したいと考えるように、企業で働く従業員も自分自身のROI最大化を常に望んでいます。
個人のROIを就労というスコープに限定して解きほぐしてみると、「I:投資」はイコール時間であり、「R:効果」は、賃金および周囲の評価となりますが、従業員のタイプを、賃金や評価の上昇を望むタイプと、プライベートな時間を確保するために就労時間の短縮を望むタイプに二分しても、両者とも単位時間における作業量の増加に集約され、当然のことながら、個人プロセス改善および最適化が、企業側の視点における生産性向上と相反しないことは明白です。

個人のプロセス改善から得られるメリットの二つ目は、トップダウン的な改善アプローチでは難しかった、『個人の能力の最大化』ができる点です。
トップダウンによる最適化は、標準化と密接な関係にあり、従業員間における生産性のバラつきを排除することは得意ながら、逆に個々のポテンシャルの100%を引き出すことは苦手としますが、ボトムアップアプローチのPPRは、標準化を必要としないため、個人の可能性を抑制することはありません。
プロ野球選手でも、体格や骨格、関節の柔軟性などの違いで全員フォームが異なるもので、本来、最適化アプローチは個々に異なって然るべきです。
ただし、ここで注意しなければならないのは、個人がプロセス改善により最大限の力を発揮できる状態になっていても、それらを有機的に結びつけるインターフェースは、オーバーヘッドが最小化されるように設計され、標準化されている必要があるということです。
多くの企業は、ピラミッド型組織を運営するための、上下を繋ぐ標準フローは整備されていても、ネットワーク型を意識した接続インターフェースは未整備であるため、PPRを実践する成功の鍵はここにあります。


PPRの第一歩は、プロセスを目に見えるようにすること、要するに「可視化」であることで、これはBPRと変わりません。しかし、トップダウンとボトムアップという決定的な違いのある両者の「可視化」は全く異なるものです。
情報システム化により、「可視化」を実現する目的は、業務分析、業務改善を実施するために、経営者及び管理者が業務を俯瞰するためであることが一般的ですが、この“上層部から俯瞰する”という点に、可視化が推進されない原因があります。
「可視化」は、言い換えれば「見える化」ですが、それを実現するシステムにおける社員の入力作業が、上層部への報告作業としての性格を備えてしまうと、「見える化」ではなく「見せる化」に変化します。
上層部が、美化された報告から可視化された情報をもとに、各社員の行動や業務プロセスを俯瞰できたと錯覚してしまうと、間違った判断、施策に繋がり、構築された改善サイクルは完全に効果を失います。
PPRは、あくまでも個人が自分の行動やプロセスを分析して、個人のプロセス改善、最適化を実現することを目的としており、余計な入力作業は最適化を阻害するオーバーヘッドに過ぎないため、PPRでは、自分自身以外への情報提供を目的とした入力は強制されず、個人的な要求を満たすための入力作業に限定されます。
PPRの実践により収集されたデータは、量の面ではBPRをはじめとしたトップダウンアプローチ手法により構築されたシステムに劣りますが、質の面においては明らかに優れており、個人的なニーズにより収集されたデータといえども、視点を裏側に移せば、的確な業務プロセス改善へと導く有益なマネジメントデータとして機能を果たします。


従来型のピラミッド型組織からネットワーク型組織への対応が迫られている今日、組織を形成する従業員個人のモチベーションは、組織の強さに直接的な影響を与えます。
PPRは、自己課題改善意識に働きかけ、従業員それぞれが個人的に最適化されたプロセスを手に入れるための手法であり、会社側から画一的な目標値や解決方法を設定されたり、達成度の評価などで不安を煽られるようなこともないため、モチベーションの低下を招く恐れがありません。
個人のモチベーションを「やる気」という簡単な日本語に置き換えたとすると、それを上下させる要因とは何でしょうか。
外部からの作用で、「やる気」を上げたり下げたりすることはできますが、上げることと比べて、下げることは遥かに容易にできます。もし、あなたに学生の子供がいたら、能動的に勉強しようとしている子供に対して、「勉強しなさい」と言ってみれば、その容易さを実感できることでしょう。
モチベーションの低下は、こういった心情を理解しないコミュニケーションによるだけでなく、高すぎる目標や強すぎる競争、低い評価や不安感など、要因は多種多様です。
若年層の社員に対して、やる気が無いと感じている管理者が存在していたら、逆に企業側から与えられる仕組みや情報に、その要因が無いかを再確認する必要があります。
その点、問題解決において、個人の改善意識を最大限に活用するPPRは、個人のプロセス改善による成果が顕著に見えやすく、自律的な競争原理も働いて、個々のモチベーションを向上させる効果を発揮します。
しかし同時に、管理すること、管理されることに慣れすぎた企業人に対しては、相当なパラダイムシフトが要求されることも自明的です。


5W1H、「Who(誰が)」「What(何を)」「When(いつ)」「Where(どこで)」「Why(なぜ)」「How(どうやって)」は、人間が相互のコミュニケーションを円滑に進めるために必要な要素であることは、議論の余地を与えませんが、実はそれらの必要性は、人間とシステム間の入出力においても、例外ではありません。
PPRは、個人的なプロセスの改善と直訳されるとおり、個人の行動がより効率的、生産的になるように、改善サイクルを構築することが目的ですが、コンピュータの力だけで到底実現できるものではありません。逆に、あまりにもコンピュータの力を頼りにすると、入出力がオーバーヘッドになり、非効率、非生産性を招く結果となります。
それでは、5W1Hを必要とするシステムの入出力負荷を軽減し、PPRを推進するにはどうすればよいのでしょうか。
その解は、5W1Hをどれだけ自動的に特定できるかがポイントとなります。
例えば、「Who(誰が)」の自動化としては、アカウントを特定する方法としてICカードのIDMや携帯電話の固体識別番号を利用し、「Where(どこで)」の自動化としては、GPSなどのモバイル位置情報を使ってロケーションを特定するなどが考えられます。
なお、5W1Hの自動化は、これらの例のような先端技術を活用した入力自動化だけではなく、リマインダによる「When(いつ)」の出力自動化や、履歴分析から推測機能で検索負荷を下げるような「Why(なぜ)」や「What(何を)」の操作自動化など、あらゆる面での創意工夫が必要です。
個人的な視点から実践されるべき改善アプローチのPPRにおいては、システムは脇役であることを認識し、記憶、計算、検索などコンピュータが優れている点を生かした、使用者にストレスを与えない設計が求められます。


『顧客満足度を上げる』これは、古今東西すべての企業にとって共通した課題であり、今日多くの企業が、この課題に取り組むために、CRM(Customer Relationship Management)システムやSFA(Sales Force Automation)の導入を実施しています。
統合パッケージで提供されることも多く、密接な関係にあるCRMとSFAですが、一般的には企業の最重要課題である顧客管理側から捉え、SFAがCRMの一環と考えられています。しかし、ここでは営業活動の最適化に注目し、CRM(顧客関係管理)を“顧客管理”より狭義な“顧客関係”として話を進めます。
CRMにおける顧客関係とは、あくまでも“顧客”と“企業”との関係です。要するに、CRMの目的は企業が長期的に顧客と友好な関係を築くことであり、特定の顧客に対して全社員が同等の情報量を持ち、均一したサービスを提供することが役割となります。
すると、CRMはSFAを包括するものではなく、逆にSFAが効率化しようとする営業活動の重要な一部分を成すものと見ることができます。
ここで、担当する顧客と友好関係を構築し、売上成績向上を目指している営業マン個人に視点を移してみると、自分以外のすべての営業マンが顧客に対するサービスレベルの均一化を図るCRMは、利害が一致すると思えません。これが、CRMやSFAの導入効果がなかなか得られない最も大きな原因であると考えることは自然なことでしょう。
PPRは、CRMとは正反対で、特定の営業マンが担当する全顧客に対するサービスレベルの最大化を実践するアプローチであるため、営業マン個人の思惑とも一致し、前述したように能動的に営業効率化が推進されていきます。その結果として、SFAが目指すところである企業全体の営業活動の最適化が実現されるのです。





